概念的枠組み:IEMTメタモデル

概要

Integral Eye Movement Technique(IEMT)メタモデルは、IEMTにおける実践過程を理解するための概念的枠組みです。表象、情動およびアイデンティティに関する構造的な仮定に基づき、前提、主要概念および手順を整理し、短時間で分析を中心としない介入によって適応的な変化が生じ得るというIEMT内の考え方を説明します。医療分野の概念モデル(Roy、Oremなど)と同様に、IEMTのメタ構造を仮定、概念、手順および想定される結果として整理したものです。

基本的な仮定

  1. 心理的苦痛は、慢性化のパターンによって、不適応的な行動、情動またはアイデンティティ状態に固定され、持続する場合があると本モデルでは考えます。
  2. 人間の経験は、表象構造(視覚、身体感覚、言語)として符号化され、限定的な実践的介入によって変化し得ると想定します。
  3. トラウマおよびインプリンティングとなる出来事は、問題となる情動学習に関連し、その構造への関わり方が変わると反応も変化する可能性があると考えます。
  4. アイデンティティは表象として扱えるという仮定に基づき、「私」「自分」「私自身」などの代名詞に関連する不適応的なアイデンティティ構成を検討対象とします。
  5. 変化は必ずしも、詳細な自己分析、明確な言語化または自己開示だけに依存せず、構造に焦点を当てた手順によって変化が生じる場合があると想定します。
  6. 短時間で焦点を絞った介入が心理、情動およびアイデンティティに意味のある変化をもたらす可能性がある、というのが本モデルの仮説です。変化の大きさ、持続性および安定性は個人や状況により異なり、確立された結果として保証されるものではありません。

主要概念

慢性化のパターン
5つのパターンは、問題が長期にわたり維持される過程を検討し、事例を整理するための実践者向けの視点です。診断ではなく、支援場面で観察され得る、変化を妨げる反応パターンとして提示します。

IEMTでは次の5つを主要な慢性化のパターンとして示します。

  • 「原因側に立つ」よりも「影響を受ける側にいる」状態。 主体性が乏しく、責任を外部へ置くように見えるパターン。
  • 3段階の過剰反応(旧称「3段階のアブリアクション」)。 不適応的と考えられる前提が問われた際に、否定的反応が段階的に強まるパターン。
  • メイビー・マン。 言葉と行動の双方が具体性を欠くパターン。「従うが、実際には実行しない」と表現されます。
  • 大きな「もし~だったら?」という問い。 提示された一般化に対し、現実の事例に基づかない反例を作り続けるパターン。
  • 変化を確認するのではなく、問題がまだ存在するかを確認すること。 改善よりも過去の困難に関する問題の物語を優先し、進展を認めにくくなるパターン。

経験の表象
記憶を視覚・身体感覚などの表象形式で扱います。本モデルでは、問題となる経験への反応が、これらの形式への関わり方によって変化し得ると考えます。

インプリンティング記憶
不適応的な情動反応が学習されたと考えられる重要な出来事を指します。現在の苦痛に関連する場合があるという仮説です。

アイデンティティ表象
代名詞に関連する構成が、クライアントの自己感覚に影響すると考えます。問題となるアイデンティティ状態を実践上の検討対象とします。

眼球運動
IEMTを特徴づける手順上の要素です。表象へ注意を向けながら指示された眼球運動を行うと、次のような主観的変化が報告される場合があると本モデルでは考えます。

  • 記憶がより遠く感じられる
  • 鮮明さや焦点が低下する
  • 年齢が進んだ視点から距離を置いて感じる
  • 身体感覚の負荷が低下する

実践上のやり取り
広範な議論や分析を必須とせず、実践者が表象への関わり方の変化を支援する、手順を中心としたやり取りです。

手順

  1. 評価
    • 提示された問題を、慢性化のパターンという枠組みから整理します。
    • 対象とする記憶(トラウマまたはインプリンティング)とアイデンティティ構造を特定します。
  2. 介入
    • クライアントが表象へ注意を向けている間に、構造化された眼球運動を行います。
    • 表象に関する主観的な変化、特に身体感覚の負荷を確認します。
  3. 想定される目標
    • 情動的苦痛の低下。
    • 記憶表象の変化(直近のことのように感じにくくなる、強度が下がるなど)。
    • 問題となるアイデンティティ状態の低下。
    • 適応的機能および心理的柔軟性の向上。

モデル上の特徴

  • 言語化を必須としない利用可能性:クライアントが問題を十分に言語化できない場合にも用いることを想定しています。
  • 簡潔さ:比較的短いセッションで用いることを想定した手順です。結果や所要回数を保証するものではありません。
  • 構造への焦点:経験の内容よりも形式へ重点を置きます。
  • 適応:慢性化とされるパターンを弱め、適応的な機能を支えることを目標とします。