暗黙的コミュニケーション
暗黙的コミュニケーションのモデル:前提と含意
ご注意:暗黙の意味は文脈や文化、本人の意図によって変わります。推測を事実として扱わず、クライアント本人に確認してください。本稿は言語学的な概説であり、IEMTの有効性を示す臨床的根拠ではありません。
会話では、明示された内容と同じくらい、語られていない内容が重要になることがあります。暗黙的コミュニケーションのモデルは、共有されていると想定される前提や、文脈から推論される含意を通じて、意味が間接的に伝わる仕組みを扱います。中心となる概念は、前提理論と、含意関係(entailment)と会話の含意(implicature)の区別です。
前提理論
哲学者ロバート・スタルネイカーの前提理論は、話し手が、自分と聞き手の間で共有されていると考える知識や仮定を土台に発話することを重視します。こうした前提は直接述べられず、発話の構造に埋め込まれています。
例えば「ジョンでさえ何とか終えた」という文には、ジョンは普段ならうまくできない、または課題を終えそうにないという前提が含まれます。話し手はそれを明言せず、発話の背景に織り込んでいます。
心理的支援の場面では、前提が会話の方向づけに影響します。例えば「次に落ち着いたと感じられたとき、もう少し一緒に見ていきましょう」という表現には、将来クライアントが落ち着きを感じるという前提が含まれます。こうした表現は、期待や将来の体験の捉え方に間接的な影響を与える可能性があります。
前提が操作的に使われる可能性
前提は、相手が直接検討したり異議を唱えたりしにくい形で考えを持ち込むためにも使えます。そのため、操作的な情報不足を論じる際の重要な論点になります。仮定を発話に埋め込むと、明示的な評価を経ないまま内容が入り込み、本人が十分に意識しないうちに信念や判断へ影響する可能性があります。
含意関係と会話の含意
暗黙の意味を分析するときは、前提に加えて、含意関係(entailment)と会話の含意(implicature)を区別することが重要です。
- 含意関係(Entailment)―元の文が真なら、そこから導かれる文も必ず真となる論理的関係。例:「彼女は資格認定を受けたIEMTプラクティショナーである」なら、所定の研修を修了していることが導かれます。
- 会話の含意(Implicature)―会話の文脈から推論される意味で、矛盾を生じずに取り消したり否定したりできます。例:「彼女はIEMTプラクティショナーです」という発言から、高い技能があると受け取る人もいるかもしれませんが、それは論理的必然ではなく推測です。

心理的支援との関係
IEMTプラクティショナーが前提、含意関係、会話の含意を区別することは、次の点に役立ちます。
- 仮定を明確にする―プラクティショナーとクライアントが同じ理解を共有しているか確認します。
- 役立たないフレームを検討する―暗黙の仮定を意識できる形にし、本人とともに検討します。
- 倫理的なコミュニケーション―必要に応じて重要な仮定を明示し、意図しない誘導や操作を避けます。
暗黙的コミュニケーションのモデルは、人のやり取りの多くが明示的な発言の背景でも働いていることを示します。前提、含意関係、会話の含意に注意を向けることで、IEMTプラクティショナーは解釈を本人に確認し、言葉の精度を高め、支援過程での倫理性を保つことができます。
参考文献:
- Stalnaker, R. (1974). Pragmatic presuppositions. In Munitz, M., & Unger, P. (Eds.), Semantics and Philosophy (pp. 197–213). New York: NYU Press.
- Grice, H. P. (1975). Logic and Conversation. In Cole, P., & Morgan, J. L. (Eds.), Syntax and Semantics, Volume 3 (pp. 41–58). New York: Academic Press.






